こんにちは、だいだい(@daidai_cash)です
2021年3月26〜28日に日本循環器学会学術集会で「2021年 日本循環器学会(JCS)/日本心不全学会(JHFS)ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」が公開されました
薬剤師として知っておいた方がいいだろうけど、よくわからん💦
ポイントはどこなんだ?
という方向けに膨大な資料の中から、主に薬物治療に関わる部分について、改定のポイントや方針についてまとめました
またそれに合わせて薬剤師として、気をつけておくべきことについても解説していきます
興味がある方や改定があった事を知らなかった方の手助けになれば幸いです
あくまで医療者(主に薬剤師向け)に書きましたので、用語等の詳しい説明は省いております
この記事は以下の構成で書いていきます
①心不全の病態等の基礎知識
②心不全治療薬の改定ポイント
③薬剤師として気をつけておくべき事
それでは順番に見ていきましょう
心不全の基礎知識
まずは基本中の基本、心不全とは何か?
定義について振り返り、さらに大枠と分類について解説
心不全の定義
まずは心不全の定義からです。ガイドラインの定義によると
心不全•••なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および / あるいは機能的異常が生じて心ポンプ 機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現しそれに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群
いや、大体は分かるけど、語句固すぎでしょう
もう少し伝わる言葉で
つまり
心臓に何かしらの原因で障害が発生して、血液を全身に上手く送れなくなった為、むくみや息苦しさが発生して、動けなくなった状態と言った感じになります
心臓が血液を送り出せず、うっ血性心不全で息苦しさが発生したり、循環機能が低下し、下肢等のむくみが発生している状態の事です
心不全の分類
心不全はあくまで状態に対する名前なので、様々な分類方法があります
急性と慢性
まずは主に発症機序による分類です
急性心不全…心筋梗塞や突発的な不整脈により一過性に急激に心臓の機能が低下し機能不全を起こすもの
慢性心不全…高血圧や弁膜症、腎不全など長期に渡って、心臓へのダメージが蓄積し、機能不全を起こすもの
というのが、一般的な急性と慢性の分類分けになっています
ただし現在はあまり急性、慢性では区別を明確にせず予防していく事が重要とされています
次の分類は心臓の可動状況による分類です
この時に用いられる指標が左室の駆出率(LVEF)です
今後の文章では略語のLVEFと記載していますのでご注意下さい
検査時のLVEFによる分類
それでは検査時のLVEFの値をもとに分類したものが下記の通り↓
①LVEFの低下した心不全(HFrEF)
LVEF40%以下で左室拡大を認める事が多い
②LVEFの保たれた心不全(HFqEF)
LVEF50%以上
③LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)
LVEF40〜50%のもの。上記の2つに明確に分類されづらいもの。境界型とも呼ばれ、個々の状態により異なる
その他の分類
また時間の経過とともに、状態がどのように変化かをもとにした心不全の分類などもありますが、今回は詳細については省略します
心不全治療薬の改定ポイント
次に薬剤師として薬物治療に焦点を当てていきたいと思います
主に薬剤師がメインで関わっていくのは慢性心不全の方でLVEFが低下した方が多いです
まずは改定ポイントの前に今までもあった原則から振り返り
薬物治療の原則
まずは改定以前から推奨されている薬物治療の原則としては
ACE阻害薬もしくはARB+β遮断薬がメインとなります
それに加えてMRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)の3剤が、慢性心不全の生命予後改善効果が認められています
各分野の代表的な薬剤は下記の通りです(一部抜粋)
◯ACE阻害薬
・リシノプリル(ロンゲス)
・エナラプリル(レニベース)
・イミダプリル(タナトリル)
◯ARB
・バルサルタン(ディオバン)
・カンデサルタン(ブロプレス)
・オルメサルタン(オルメテック)
・アジルサルタン(アジルバ)
◯β遮断薬
・ビソプロソール(メインテート)
・カルベジロール(アーチスト)
・メトプロロール(ロプレソール、セロケン)
◯MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
・スピロノラクトン(アルダクトンA)
・エプレレノン(セララ)
・エサキセレノン(ミネブロ)
このあたりの薬剤は確実に抑えておくようにしましょう
特にARBやβ遮断に関しては心不全だけでなく、高血圧の治療にも使われるのでよく目にする事があるかと思います
さらに個々の症状や状態に合わせて薬剤が追加されます
・利尿薬…鬱血やむくみ、息切れがひどい時状態で
・抗不整脈薬…洞調律維持や脈拍コントロールが必要な方に
・ジキタリス…心房細動を伴う方で心拍コントロールが必要かつLVEF改善の為に
これが2017年までガイドラインの内容でした
ここから改定で追加された薬剤について記載していきます
改定で追加された薬剤
この記事のメインテーマである改定で推奨に追加された薬剤は下記の3種類です
・サクビトリルバルサルタン(アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)
・イバブラシン(IHCN チャネル遮断薬)
・フォシーガ(SGLT2阻害薬)
上記の3剤について1つずつ作用機序や適応、気をつけるべきことについて見ていきましょう
サクビトリルバルサルタン(アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)
サクビトリルバルサルタン(商品名:エンレスト)の添付文書はこちら→エンレスト添付文書
エンレストは1分子中にARBのバルサルタンとネプリライシン阻害薬のプロドラッグであるサクビトリルを1:1 で結合含有させた化合物です
つまり2つの効果のある薬物を結合させた薬剤となります
ARBであるバルサルタンに関してはそのままで慢性心不全の標準治療薬剤となるので、ネプリライシン阻害作用のサクビトリルについて説明します
ネプリライシン阻害作用により心因性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)等が上昇し、利尿、心保護作用をします
当然ですが、ARBが1分子中に含まれているのでACE阻害薬やARBとの併用は基本的に行いません
ACE阻害薬との併用は禁忌となっていますしね
この薬剤もあくまでファーストチョイスというわけではなく、既存治療で十分な効果が見られないときに切り替えるという形で使います
とはいえ既存治療で十分な効果が出ていない方に投与する事は推奨グレードトップクラスで進められています
副作用としてはバルサルタンがメインとなっており、高カリウム血症や浮腫等に注意が必要です
イバブラシン( HCN チャネル遮断薬)
イバブラシン(商品名:コララン)の添付文書はこちら→コララン添付文書
洞結節のHCNチャネルを遮断することにより心拍数を低下させる薬剤です。
心拍数のコントロールにはβ遮断薬もありますが、血圧の低下が起こります
β遮断薬が心不全の最初の導入で積極的に用いられながらも、低用量から開始し、増量しなければいけない理由がここにあります
そんな中コラランは血圧にほとんど影響を及ぼさず、脈拍をコントロール出来ます
血圧が高くなく、心拍数が高い方には非常に適しています
その為、コラランの添付文書には適応として
「洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が 75 回 / 分以上の慢性心不全。ただし、β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けて いる患者に限る」と記載があります
つまり標準的な3剤併用の治療を受けていても、心拍数が多い方に上乗せして使う薬剤と
位置づけ
ファーストチョイスで選ぶものではない薬剤という位置づけになります
薬剤師としての要注意点は代謝がCYP3A4で行われ、CYP3A4メインで代謝される薬物との併用が禁忌である事
代表例として
・クラリス
・イトリゾール
・ヘルベッサー
・ワソラン
などなど
特にクラリスは要注意。急に処方される可能性もあります
特にクラリスは他で気づかれずに処方されてしまう事が多そうです
ここは薬剤師が気付いて阻止したい所ですね
フォシーガ(SGLT2阻害薬)
糖尿病治療薬として実績のあるSGLT2阻害薬です
作用機序としてはナトリウム・グルコール共輸送体2(SGLT2)を阻害し、血中の糖の再吸収を抑えて、尿中への糖排泄を促進します
糖排泄促進による利尿作用がある為、うっ血の改善効果は期待できます
さらに腎保護作用により心保護の効果が期待できる事です
現時点(2021年5月14日現在)ではフォシーガのみが心不全の適応とっていますが、
作用機序を考えると他のSGLT2も適応を追加していく可能性は高いです
薬剤師として気をつけておくべき事
慢性心不全の処方に薬剤師として関わる際に気を付けておくべき事を2つあげます
1つ目は慢性心不全の治療にどのような形で関わっていくか?
そして2つ目は今回治療の推奨に追加になったSGLT2阻害薬について
慢性心不全の服薬指導に対して
慢性心不全の治療は長期にわたって継続していく事がほとんどです
残念ながら心臓の機能は回復せず、徐々に悪化していきます
もちろん出来るだけ心機能を維持していく事が大切ですが、それには適切な薬物治療が外せません
そして治療においては複数の薬剤を組み合わせて治療していく事が通常です
薬剤師としてはやはり患者の
・アドヒアラアンス
・コンプライアンス
この2つをきちんと確認して向上させていく事が必要となってきます
その為には治療意義や目標について理解してもらう事が重要となってきます
SGLT2阻害薬について
特に今回追加になったフォシーガ(SGLT2阻害薬)に関して、服薬指導時に注意が必要だと考えます
糖尿病治療薬として使うSGLT2阻害薬は、糖の尿中への排泄を促進するため、利尿作用があり、副作用として脱水があります
その為、服薬指導時に適度な飲水を推奨する事が求められます
重篤な副作用として脱水からの乳酸アシドーシスを防がなければいけません
さらに初期SGLT2が出始めの頃は
SGLT2阻害服用→脱水→脳梗塞の事例があり、適正使用の注意喚起もされました(その後様々な研究の結果、現在時点では明確にリスクが上昇したエビデンスはないようですが、注意は必要でしょう)
上記のように糖尿病治療だけなら水分摂取の積極推奨も良いと思います
しかし慢性心不全治療の為の処方で、水分が貯留しがちな全患者に過剰な水分摂取は禁物でしょう
このあたりはやはり処方元の医師との連携が非常に重要となって来ます
万が一慢性心不全の処方内容と気づかず、積極的な水分摂取のみを推奨して、むくみがひどくなっては目も当てられません
やはり患者さんにより良い治療を提供するためには医師との連携は欠かせないものだと思います
多くの薬剤師の力になり、より治療の効果が上がる事の一助に慣れれば幸いです
また薬剤師として働いていく上で最低限、どちらかの書籍は持っておくようにしましょう
1冊目
2冊目
調べものをしたり、網羅的に薬剤をみるには必須の書籍です
また最近新薬が出て注目の認知症の薬物治療に関しても下記で解説しています>>新薬アデュカヌマブの作用機序と抱える問題点
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